取材:2022年京都大学熊野寮祭「総長室突入」での学生懲戒処分・逮捕・家宅捜索

 2022年12月2日に京都大学熊野寮自治会(以下、寮自治会)が開催した寮祭企画「総長室突入」(1)での学生らの行動を理由に、2024年9月25日に京都大学当局(以下、大学当局)は5名の学生に懲戒処分(有期停学1カ月4人、2カ月1人)を実行した。また、大学当局の告訴によって2025年2月8日に学生・元学生ら6人が、2月13日に学生1人が威力業務妨害罪で逮捕された。この記事は、2022年「総長室突入」を起因とする政府機関による学生運動の弾圧の取材記事である。 

2022年「総長室突入」 

   2022年12月2日に、寮自治会は寮祭企画「総長室突入」を実施した。この企画は、総長に10か条から成る要求項目(2)を直談判するために、総長室が存在する建造物に「突入」を試みたものである。2015年を最後に大学当局は寮自治会との団体交渉(3)を打ち切り、寮自治会の再開要求を受け付けない状態が2025年現在も続いている。この間、大学当局による吉田寮への訴訟に見られるように、大学当局による学生の管理体制が強化されている。よって、総長に直談判をする運びとなったようである。 

 当日の様子として、学生ら約250名がシュプレヒコールを伴いながら、京都大学のシンボルであるクスノキ前から総長室のある大学本部棟に移動し、「突入」を開始した。本部棟は大学当局によって締め切られており、開錠を求める学生らが一時玄関前にて足止めを喰ったが、職員が開錠し、「突入」を果たした。結局、総長は現れず、直談判は達成されなかったが、大学当局に抗う学生らの反政府機運は高まったとみられる。なお、学生らが「突入」を試みている最中に、警察官らが大学構内への侵入を模索しており、学生らはスクラムを組んでこれを阻止していた。 

懲戒処分 

 2022年「総長室突入」から2年後の2024年9月25日、大学当局は以下の声明と共に5人の学生を懲戒処分とした。京都大学のホームページで当該の学生懲戒処分の記事が存在しないため、京都大学新聞社の記事(2024年10月3日付「熊野寮祭 5学生に停学処分 「総長室突入」にて学生を「扇動」」https://www.kyoto-up.org/archives/9876 閲覧日2025年3月2日)を引用すると、 

京大は処分の理由について、「職員の制止を無視して多数の学生等の本部棟構内への侵入を扇動して喧騒を激化させる」行為は「正常な業務遂行を妨害するものである」ことから、5学生が京都大学通則に規定する「学生の本分を守らない者」だと判断したと説明している。 

としている。なお、京都大学における「学生の本分」は京都大学通則や京都大学学生懲戒規定にその定義が示されていないため、何を指しているのか判別できないが、「学生の本分」の定義を問う学生の質問に対して、2019年9月13日投稿同年9月24日回答の学生意見箱(回答者:学生担当理事・副学長(当時)川添信介 https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/education-campus/cli/mail/other 閲覧日2025年3月2日)によると、 

「学生の本分を守らない者」とは、京都大学学生懲戒規定に規定する (1)京都大学 (以下「本学」という。)の諸規定又は命令に違反した者 (2)本学の教育研究活動を妨害した者 (3)刑罰法令に触れる行為を行った者 (4)本学の名誉・信用を著しく失墜させた者 (5)前各号に準ずる不適切な行為を行った者のことを言います。 

と記述されている。これは、京都大学学生懲戒規定第3条(https://www.kyoto-u.ac.jp/uni_int/kitei/reiki_honbun/w002RG00000283.html 閲覧日2025年3月2日)をなぞらえただけであり、何も回答していないに等しい。 

逮捕 

 2025年2月8日に6名の学生らが逮捕され、2月13日にさらに1名が逮捕された。2022年「総長室突入」で上述の「……扇動して喧騒を激化させる」行為を理由に、京都大学当局の告訴によって威力業務妨害で逮捕されたのだ。 

 逮捕の光景はいわゆる「法治国家」とは思えないもので、数十人の警察官に雑踏で逮捕された者、飛行機の着陸後に空港の別室に連行され人知れず逮捕された者等、苛烈なものとなった。 

  

熊野寮への家宅捜索 

 6名の逮捕の翌日の2月9日に京都大学熊野寮で、前述の威力業務妨害罪での家宅捜索が行われた。数百人のフル装備の機動隊を含む警察官らが熊野寮至近の歩道に整列し、また、機動隊車両7両の車内で待機するに至った。今回に限らず、寮自治会への家宅捜索は「法」のプロセスに則っているとは到底言えず、2024年6月25日に発生した家宅捜索では、令状を提示せずに熊野寮へ強襲した警察官が寮の設備を専用の電動カッターとバールで破壊し、また、寮生数十名を負傷させ、うち寮生1名は救急搬送される事態となった。今回の家宅捜索では、寮生らが寮の門前で立ちふさがり、警察官に令状読み上げを迫った。令状提示を迫る最中、寮生が令状提示を求めると、警察官は「法律の話をする気はない」と述べ、政府構成員にとって「法」はお飾りであることを自白した。もし読者に「法の下の平等」や「法治国家」を信仰する者がいれば、是非、警察官に「法」に則った行為を迫って欲しいものである。 

 押収品についても、信じられないほど杜撰な対応であり、5点の押収品のうち3点は2022年「総長室突入」後に作成されたビラ類で、うち1点は、なんと家宅捜索当日の午前中に作成されたものであった。「(書かれている)思想が影響を与えた」というのが警察官の言い分だが、案件後に作られたものがどのように過去に影響を与えたのか、皆目見当がつかない。また、「思想が影響を与えた」のであれば、ありとあらゆるものが押収の対象となるだろうが――2022年「総長室突入」では「京都大学立看板規程を撤廃すること」が含まれているが、当該規定が列挙された書類を押収するのだろうか――公に配布されたもののみを押収していることから押収や捜査は名目に過ぎず、政治弾圧が主旨であることは明らかである。 

 警察官の撤収後、京都大学第三小委員会(※京都大学において寮を担当する教員らから構成される組織)の構成員や乾浩典・厚生課課長(4)を踏まえた集約で、乾氏から大学当局が告訴したことが明らかにされた。 

窓口交渉 

 2025年2月21日の窓口交渉(※寮自治会と大学当局の交渉を行う)で、乾厚生課長は「大学が(告訴を)決定した」と述べ、寮生らが乾氏の云う「大学」とは何を指すのかと問いただすと、「然るべきところ」と述べ、また「学生と(多くの)教員は含まれない」ことを認めた。さらに「然るべきところ」が何かを指すと、「然るべきところは然るべきところ」と要領の得ない回答を繰り返すばかりで、最後まで決定主体を明らかにしなかった。さらに、乾氏は「顔と名前が分かっている者がいたら全員逮捕する」と述べ、政治弾圧の構えを崩さなかった。大学に関する決定に学生と(多くの)教員が含まれていないことが明白となった上記の問答は、政府がどのような存在であるかを人々に知らせる最良の手段となることは疑いようがない。 

救援・街宣 

 7名の逮捕から数日が経たぬうちに逮捕者の救援と、不当逮捕を糾弾する街宣が行われた。街宣は連日にわたって行われ、多くの人々がビラを受け取った。 

 セクト・ノンセクト・ノンポリを問わない不当逮捕への怒りは、人々をますます反国家主義の側へ向かわせた。寮生らはもちろん、他大学の学生や市民が街宣に駆けつけた。 

勾留理由開示公判 

 2025年2月27日、京都地裁にて4名の逮捕者の勾留理由開示公判が行われた。100人近くが結集した当裁判は、不当逮捕への怒りを持った人々で充たされた。裁判とは名ばかりであり、司法も国家の一部であることが確認され、法廷は怒号に包まれた。不当な逮捕状・捜索令状を発行した裁判官は弾劾の対象となった。 

釈放 

 2025年2月28日、7名の逮捕者は処分保留となり釈放された。今後の起訴の可能性があるため予断を許さないが、国家に抗する叛徒らの緒戦での圧倒的な勝利と言えるだろう。 

インタビュー 

 以下は、一連の処分・逮捕について、ある学生に対して行ったインタビューである。 

  • Y.Y.さん(文学部1回生) 

――一連の処分・逮捕についてどう思いますか? 

 大事件だと思った。逮捕されてびっくりした。顔を知っている、話したことがある人たちが、ある日突然いなくなって捕まることが、今の時代に起こるのだなと思った。「総長室突入」、窓口交渉、政治活動は馴染みがあるもので、それを理由に警察に人生を変えられるレベルで連れ去られていったというのは、今までの自分の人生になかった衝撃的なもの。ガサには緊張感があった。就寝中に怒号が響き渡って目覚めたらガサの連絡があり、生命の危機を感じた。自分自身が寮を守っていかなければと強く感じる。 

――大学当局に意見はありますか? 

 怖い。びっくり。(処分と逮捕は)おかしい。 

おわりに 

 現在は、学内で総長に直談判をしただけで逮捕される時代である。政府は自らの「化けの皮」が剥がれることを恐れている。どのような「化けの皮」か。政府は略奪と強制を行う組織であり、「法」はそれら行為のための「便利な言い訳」であるにすぎない。「憲法」が国家を縛るという観念(願望)は陳腐なおとぎ話の類であり、実際の国家・政府は何食わぬ顔で「憲法」や「法」を毀損する。最早、そのような「化けの皮」を覆い続けることは不可能であり、熱意ある者によって暴露され続けるだろう。 

(リバタリアン協会) 

注釈  

(1)2023年にも「総長室突入」が開催されたため、区別のため、逐一2022年「総長室突入」、2023年「総長室突入」と表記する。 

(2)京都大学熊野寮(2022)「総長室突入の声明文と要求書」https://kumano-ryo.jimdofree.com/%E5%A3%B0%E6%98%8E%E6%96%87/%E7%B7%8F%E9%95%B7%E5%AE%A4%E7%AA%81%E5%85%A5%E3%81%AE%E5%A3%B0%E6%98%8E%E6%96%87%E3%81%A8%E8%A6%81%E6%B1%82%E6%9B%B8/ 閲覧日2025年3月2日。 

(3)京都大学熊野寮における団体交渉とは、大学当局(総長・教職員らによって構成される)と寮自治会による多人数交渉のことであり、大学当局側によって打ち切られるまでの間、大学当局と寮自治会の「協定」として機能していた。 

(4)京都大学の役員・職員の名簿は「京都大学概要2024」ページの「データ編」中「役員・役職者等」に記載がある。京都大学「京都大学概要2024」https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/about/public/issue/ku-profile 閲覧日2025年3月2日。