マイニング報酬=(ブロック報酬+1ブロックに入っている全ての取引のtransaction fee)で定義する。
市場の平均的なマイナーにとって
- 生産コスト<(ブロック報酬+transaction fee)
のとき、 マイナーは、以下の2つの戦略のいずれか、またはその混合を選択することができる。
- 戦略1:得たBTCやKaspaをすぐに法定通貨に戻し、利益確定する。生産コストは法定通貨で支払う必要があるため、生産コスト分は必ず戦略1を採用する必要がある。
- 戦略2:得たBTCやKaspaを持ち続け、将来の値上がりに期待する。
- 戦略1の場合、市場にはマイナーによる売り圧力が生じる。戦略2の場合、市場にはマイナーによる売り圧力が生じない。
合理的なマイナーは、生産コストの支払いに必要な分を超えて得たBTCやKaspaに関して、
- 将来、価格が下がる(または変わらない)と予想されるとき:戦略1
- 将来、価格が上がると予想されるとき:戦略2
を、それぞれ採用する。
マイナーによる保有の継続如何の選択が、市場における価格決定に対して支配的であるという仮定のもとでは、
- 戦略1を採用するマイナーが多い時、価格は再帰的に下がる。ただし、価格が下がり続けると、不等式の関係はいずれ逆転する。
- 戦略2を採用するマイナーが多い時、価格は再帰的に上がる。
ここで、ブロック報酬と、transaction fee、及びそれらを合わせたマイニング報酬の変動要因について、それぞれ考える。
- ブロック報酬は、BTCの場合は約4年に一度急激に、Kaspaの場合は毎月約5%ずつ1年かけて半減する。
transaction feeは、ネットワークの混雑状況によって変化する。今は、KRC20の導入によって、ミームコインで遊ぶ人が増えたため、Kaspaのtransaction feeが2024年9月頃を境に増加した。
市場全体で投入されているハッシュレートが増大すると、自分が投入している計算量が変わらない場合、受け取れる(ブロック報酬+transaction fee)は減少する。
市場全体のハッシュレートが減少すると、その逆に自分が受け取れる(ブロック報酬+transaction fee)は増大する。
通常、ブロック報酬は時間経過と共に減少するし、旨みに気付いた新規マイナーが市場参入することでハッシュレートが増大し(ブロック報酬+transaction fee)が減少するので、個々のマイナーあるいは市場の平均的なマイナーにとって
- 生産コスト<(ブロック報酬+transaction fee)
という状況は、次第に逆転し、
- (ブロック報酬+transaction fee)<生産コスト
となるだろう。
しかし、こうしたブロック報酬が不等式の趨勢を決定するという議論は、transaction feeがブロック報酬に対して有意に小さいときに成り立つ議論であって、transaction feeが大きいときは、逆にtransaction feeが不等式の趨勢を決定する可能性が高い。
しかし、この議論は現在考察中であるので、別の機会に行なう。
さて、いよいよブロック報酬の減少によって、
- 生産コスト<(ブロック報酬+transaction fee)
という関係が逆転し、
- (ブロック報酬+transaction fee)<生産コスト
となった場合のことを考えよう。
- (ブロック報酬+transaction fee)<生産コスト
のとき、マイナーは、以下の2つの戦略のいずれか、またはその混合を選択することができる。
この状況では、マイナーは赤字であるため、
- 戦略1:マイニングを諦め、事業から撤退する。
- 戦略2:自分たちの生産コストを下げて、再度不等式が逆転するように努力する。
戦略1の場合、事業から撤退したマイナーは保有するBTCを売却すると考えられているため、市場には売り圧力が生じる。
戦略2の場合でも、マイナーは生産コストを法定通貨で支払わなければならないため、得たBTCやKaspaを売却しなければならないだろう。従って、市場には売り圧力が生じる。
つまり、戦略1,2のいずれを採用するマイナーからも売り圧力が生じるため、現在の不等式の関係が成り立っている間は、価格は下がり続けるものと考えられる。
これが、BTCのブロック報酬が半減する時点から、およそ半年から1年にかけてBTC価格が低迷する理由である。
さて、戦略1を採用したマイナーが市場から撤退すると、市場全体のハッシュレートが下がり、戦略2を採用しながらマイニングを継続しているマイナーが受け取れる(ブロック報酬+transaction fee)は増加する。その結果、しばらく時間が経つと、不等式の関係が再度逆転するマイナーが出現し始める。その後、市場の平均的なマイナーにとって不等式の関係が逆転するまで、戦略1を採用したマイナーの淘汰と、戦略2を採用したマイナーの企業努力による生産コストの低下が進行し続ける。
BTCの場合は、約4年に一度ブロック報酬が半減するという明確な節目があるため、この調整過程が理解しやすいが、Kaspaの場合は毎月約5%ずつ、1年かけてブロック報酬が半減するため、この調整過程は、市場のマイナー全体に対して同時に起こるものではないが、基本的な話の筋としては、間違っていないと考えられる。
BTCやKaspaの法定通貨建て市場価格は逐一変動するが、これは(ブロック報酬+transaction fee)を左右するため、不等式の関係に決定的に影響する。まとめると、不等式の関係は価格に影響を与えるし、価格は不等式の関係に影響を与える、動的な系であると言える。
(K.S.)
