バクーニン/シュティルナー統合

編集者より

 本稿は、秋井乃音斗氏が2025年10月18日に自身のnoteで掲載した記事を転載したものである。

 URL:https://note.com/archy_none/n/n9ecba64068d8 (最終閲覧日:2025年11月19日)

 原文にはなかったURLの表記を加筆してある。
 以下、本文。

 本稿では、バクーニンとシュティルナーの思想を弁証法的に統合することを試みる。以下に、双方の思想が矛盾せずに合体し、一つの論理構造に収束させるために、それぞれのエッセンス毎に保存と廃棄を選択する作業を行う。

バクーニンの思想からは、唯物論、総破壊、そして無政府集産主義を保存する。一方で、ドイツ人を「国家的民族」とし、スラヴ人を「非国家的民族」として特権化しようとする、以下の引用のようなバクーニンの民族主義的要素、特に革命的汎スラヴ主義や反ドイツ・反ユダヤ的言説は廃棄する。

『国家制度とアナーキー』におけるバクーニンの反ドイツ的言説は、次のようなものである。「ドイツ人は国家に生と自由を求める。スラヴ人にとって国家は墓場である」(77)、「…我々はスラヴ人プロレタリアートのこの党[マルクスの一派を指す─山本]への自殺的な加入を阻止するため、尽力するであろう。この党は断じて人民的ではなく、その方向性、目的、手段においても純然たるブルジョアであり、加えてこの上なくドイツ的、すなわちスラヴ人には死である」(78) 、 「…ロシア人も完全にスラヴ人である。ドイツ人が嫌なのだ」(79) 、「…ドイツ人たちの侵略の脅威に共に対峙しているスラヴ諸民族とラテン諸民族の同盟は切に必要とされるであろう」(80)、「…ドイツ人は非常に高度な国家的な民族であって、この国家性がこの民族にあって他のどのような情熱をも凌駕し、自由の本能をも完全に押さえ込んでしまうのである」(81)。
このように、反ドイツ的言説には「スラヴ人=非国家的民族」、「ドイツ人=国家的民族」という、古典的スラヴ主義者にも通じる民族観が表現され、「スラヴ対ドイツ」という対立の構図がリフレインされている。

山本健三「M. A. バクーニンにおけるスラヴ問題:研究史と問題提起」p.328

URL:https://cir.nii.ac.jp/crid/1050564288954465536 

シュティルナーの思想からは、唯一者と「エゴイストの連合」を保存し、観念論およびプラグマティズムを廃棄する。ここでいう観念論とは、マルクスが『ドイツ・イデオロギー』において批判したような「理念による理念の否定」という論理であり、プラグマティズムとは、以下の引用のように、国家を敵視しながらも「利用」可能なものとして扱い、国家を正当化も廃絶もせずに曖昧に容認する態度である。

観念としての「国家なるもの」に服従しない点でエゴイズムがアナーキズムを内に含み込んでいると理解することは不可能ではないだろうが、ほぼ無意味である。エゴイズムは「精神 Geist」の内で「国家なるもの」にだけ固執しているわけではないし、エゴイストにとって国家の命運は主な関心の外にあるため、その聖性と正統性を何ら認めない代わりに、その廃絶を目的にすることもない。「エゴイストは、国家が彼の自己性に触れるときにのみ、国家にたいして活発な利害関心をもつ」ので、「国家が彼の望みどおりになっていてくれるかぎり」、彼は「国政に関与したりはしない」(EE257-258/下 119-120)。同様に国家の打倒を画策したりはしないだろう。エゴイストは敵対する国家も利用する。敵である国家からの「許可」は受け取らないつもりか、と問う者に対してシュティルナーはこう答える。「いやいや、喜んでお受けしましょう」(EE317/下 197)

松尾隆佑「シュティルナーの誤解者たち:日本語圏における研究史の類型論的整理」p.20

URL:https://researchmap.jp/kihamu/published_papers/21355773

 この統合の論理構造は、実存主義的では無く、唯物論的な唯一者の概念を中心に据えるものである。唯一者は〈私〉を制約し疎外するあらゆる超越的権威――理念、政治権力、制度など――を絶えず総破壊する。そして同時に、唯一者は相互利益と連帯の為に「エゴイストの連合」を形成する。これは、バクーニン主義における「自由なコミューンの連邦」の構想とイコールで等しく繋げる事が出来る。

 唯一者とは、社会的条件の上に成立する物質的な存在でありながら、その社会的条件によって〈私〉に押し付けられた現実の抑圧を断ち切ろうと能動的に叛逆する存在である。叛逆の正当性は倫理やイデオロギーに基づくものではなく、支配への怒りと自由な生への根源的欲求の発露であり、唯一者の存在の根本的条件である。

(秋井乃音斗)