編集より
本稿は以下より閲覧可能である。
https://note.com/bitcoinstandard/n/nc26b6138bf7a?sub_rt=share_b
(最終閲覧日:2026年3月15日16時50分)
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2025年11月17日のCoinPostから引用する。
JBA(筆者注:一般社団法人日本ブロックチェーン協会)からは、セキュリティ強化を目的とした「Japan Cold Wallet」構想が提案された。政府が運営する大規模なコールドウォレットに日本の暗号資産を集約し、海外送金や自己管理型ウォレットへの送金時のみブロックチェーンを使用することで、ハッキングリスクを大幅に低減できるという。[1]
まず最初に断っておくが、「Japan Cold Wallet」構想は、日本国内の暗号通貨取引所に預託された顧客資産を政府が一元管理することを目指すものである。アメリカ合衆国のトランプ政権が推進するStrategic Bitcoin Reserve(戦略的ビットコイン備蓄)とは似て非なるものであることを強調しておきたい。彼の地の政策は、合衆国政府自身が、石油やゴールドなどの国家備蓄と同様にビットコインなどの暗号通貨を一定量保有することを目指すものであり、それ自体は合衆国政府の資産である。一方で、「Japan Cold Wallet」構想において日本政府が管理する暗号通貨は、元はと言えば顧客たる国民の資産である。この違いは重要な違いであるので、よく認識して頂きたい。
2025年11月20日現在、暗号通貨(cryptocurrency)の時価総額に占めるビットコインの割合を示すビットコイン・ドミナンス(BTC.D)は、59〜60%となっている[2]。従って、「Japan Cold Wallet」構想が実現した場合、その暗号通貨の大部分を占めるのはビットコインであると考えて差し支えないだろう。
ところで、ビットコインはサトシ・ナカモトによって発明されたわけであるが、その主張をビットコイン・ホワイトペーパー[3]からChatGPT 5.1に要約してもらった。その要点は、以下の3点に集約される。
- P2P電子現金
中央の第三者を不要にし、暗号学的証明に基づいて当事者同士が直接、安全に価値を送れる仕組みを実現した点。
- 二重支払いの解決
公開台帳とPoWにより、取引の正当性を全参加者で合意し、不正な履歴改ざんや複製を事実上不可能にした点。
- 非中央集権的な発行と運営
通貨発行と検証を特定主体から切り離し、参加者全体の合意で健全性が保たれる自律的ネットワークを構築した点。
我々は、「Japan Cold Wallet」構想に反対する。「政府が管理運営する大規模なコールドウォレット」という世にも奇妙な概念は、上記のような当初のサトシの思想と悉く反目する。わざわざ「中央の第三者を不要にし」「当事者同士が直接」価値を送金できる仕組みを構築したのに、それをもう一度中央集権的な政府のもとに集めるとは、本末転倒に他ならない。全く内在的な論理の一貫性を欠いていると言わざるを得ない。
さらに、「Japan Cold Wallet」を開始することで、国内同士の送金を管理するための台帳を、政府内部に新たに構築する必要があると考えられる。しかし、そもそもビットコインや、そこから派生した数多のアルトコインとは、そのような台帳を分散的な仕組みの元に実現するものであった。台帳を中央集権のもとに返してしまえば、「公開台帳とPoWにより、取引の正当性を全参加者で合意し、不正な履歴改ざんや複製を事実上不可能に」することはできなくなるし、「通貨発行と検証を特定主体から切り離し、参加者全体の合意で健全性が保たれる自律的ネットワークを構築」できなくなる。
危険はそれだけに留まらない。2024年5月末にDMMビットコインという大手国内暗号通貨取引所が、北朝鮮のハッカーグループに攻撃を受け、約482億円相当の顧客資産を喪失したことは記憶に新しい。報道によると、なんとDMMビットコインの顧客資産は、「コールドウォレット」で管理されていたという[4]。
ここまで聞けば、「Japan Cold Wallet」なる構想により、「政府が運営する大規模なコールドウォレットに日本の暗号資産を集約し、海外送金や自己管理型ウォレットへの送金時のみブロックチェーンを使用することで、ハッキングリスクを大幅に低減できる」というJBAの説明は、何か悪い冗談にしか思えなくなる。わざわざ日本中の暗号通貨を一箇所に集めてあげることは、単一障害点リスクを高めてハッカーグループの標的に自ら名乗りを上げるようなものだ。ブロックチェーン推進議員連盟(木原誠二会長)やJBAには外国の工作員が浸透しているのか?
さて、「Japan Cold Wallet」構想推進派の意見を見てみよう。国内暗号通貨取引所大手bitFlyerの加納裕三氏のX(Twitter)投稿から引用する。
何度も説明していますが、Japan Cold Walletは99.9%を「本当のCold化」するので全額ハッキングされる可能性は限りなく低いです。そして万が一何かがあっても政府が保障する全体です[5]
リスクが限りなく低いとしても、一度そのような事象が生じると壊滅的な被害を発生するような現象(金融危機や自然災害などが例)のリスクを「テール・リスク」と呼ぶ。日本中の暗号通貨を一箇所に集め、「Japan Cold Wallet」によって管理するようなことは、まさにテール・リスクではないのか。一度でも過ちを犯せば、日本の国富が相当程度失われるのである。このような構想を推進する人々に対しては、単なる自社の利益を主張するポジション・トークであると指摘されても何ら不思議ではない。
「政府が保障」しても、何の問題解決にもならない。政府が失われた暗号通貨全額を保障するには財源が必要であり、それは増税か新規国債発行により賄われると考えるのが自然だろう。しかし、増税は直接に、新規国債発行による財政支出は間接にインフレ税という形で、国民資産を収奪する。政府保障によっては、この問題は一切解決できないのである。
さて、我々は既に、ビットコインをはじめとする暗号通貨の良い管理方法を知っている。それは、人々が自らのビットコインを自己管理(セルフ・カストディ)することである。
ビットコイン・スタンダードの社会は、個人、あるいは十分に分散化された主体がビットコインを自己管理することで成立する社会である。[6]
Not your keys, Not your coin!
[1]CoinPost 2025年11月17日 https://coinpost.jp/?p=666979
[2]Trading View https://jp.tradingview.com/symbols/BTC.D/
[3]Satoshi Nakmoto, “Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System” (2008) https://bitcoin.org/bitcoin.pdf
[4]「DMMビットコインに改善命令 482億円分の流出で、金融庁」(朝日新聞、2024年9月26日)https://www.asahi.com/sp/articles/ASS9V2DJWS9VULFA01JM.html
[5]加納裕三のX(Twitter)投稿 2025年11月18日 https://x.com/yuzokano/status/1990579839037026622?s=46
[6]「ビットコインと政府との関係はどうあるべきか」(機関紙「リバタリアン」Vol.12、2024年9月3日) https://institute-for-libertarian.org/the-libertarian/1810/
(ビットコイン・スタンダード・インスティチュート)
