ロスバード的な減税戦略の理論 ー妥協なき自由への要求ー

*本記事は「リバタリアン協会(LS)」のnoteにて[2022年4月29日 18:43]に公開されたものです。

「ロスバード的な減税戦略の理論 ー妥協なき自由への要求ー」(https://note.com/ls_jpn/n/n9d948203f258)より。

目次

  1. はじめに
  2. 究極目標としての廃止主義(と段階主義の危険性)
  3. 過渡的な要求
  4. 財政赤字という反論
  5. 勝利の条件
  6. 共同戦線
  7. おわりに

はじめに

 以前注文していたマリー・ロスバードの『自由の倫理学』が家に届いたのだが,中でも「第五部 自由への戦略の理論」という見出しが興味深く,真っ先に読んでしまった.リバタリアン活動家として第一線で活躍した彼の戦略は,現代のリバタリアンにとっても有用だろうから紹介したい.もっとも,彼の議論は急進的ではあるので,主張の受け止め方は人それぞれだろう.  

 また,引用文中には「~べき」「~ならない」とあるが,究極的には個人の自由なので,ロス バードを根拠に他人の活動を批判するのは慎重である方が良さそうだ.筆者としては,本記事のシェアによって説得していただけると(数字的にも)嬉しいし,攻撃の応酬になるより望ましいと思う.  
 
 マリー・ロスバードについて簡単に紹介しておくと,彼は自然権を基礎にした無政府資本主義者で,代表的なリバタリアンの一人である.アイン・ランドやミルトン・フリードマンと並ぶほどの影響を与えたと言われる.マレー・ロスバードの方が一般的な表記だと思うが,書籍に合わせている.  

 私自身は穏健なリバタリアンだと自己認識しているから,彼の主張を全て受け入れるわけではないが,強い説得力があると考える.

究極目標としての廃止主義(と段階主義の危険性)

 ロスバードはまず、リバタリアンにとっての最高の政治的目的は自由であるべきだ,という.次に以下のように言う.

 「もし、自由が最高の政治目的であるべきならば、自由は最も効果的な手段によって、すなわち、最も速やかにそして徹底的にゴールに到達するであろう手段によって追求されねばならないということになる。だからリバタリアンは『廃止論者』でなければならない。」⑴(原文ゴチッ ク)  

 これに対して,廃止主義は「非現実的」だ,という批判がある.  

 これに対し彼は,「究極的なゴール」と「ゴールに至る方法の戦術評価」を区別するのが重要 だと反論する.上記の廃止主義は「究極のゴール」であって,戦術はまた別だということだ.  

 加えて,ゴールの現実性については,以下のように言う.
「もし十分な人々がそれに同意すれば達成可能であり」「その結果生ずるリバタリアンなシステムは存続可能である、という意味では『現実的』である」⑵  

 これに対して,即時の廃止は戦術として適当ではないから段階的に法改正しよう,といった考 えもあり得る.このような段階主義は危険であると彼は言う.  

 実践の面で彼は,ウィリアム・ロイド・ギャリソンの言葉を引用する.  「できる限り真剣に即時の廃止を唱えよ。そうすれば最後に、残念なことだが段階的に廃止されるだろう。」「理論における段階主義は実践における永遠である。」⑶  

 論理的危険性の面で彼は,段階主義の戦術は目的自体を掘り崩すことになる,と言う.彼の論 理によれば,例えば,「消費税を10%から5%へ減税せよ」と言うことは「今すぐ消費税を廃止 するのは不正だ」とか「自由よりも消費税5%分の福祉が重要だ」「消費税は5%ならあっても良い」と主張するのと変わらない,ということになる.このようにして,自由というゴールを延長することになる.  

 とはいえ,彼は戦術の面では過渡的な要求が必要だと認めている.彼にとって問題なのは,段 階主義が本来の目的と矛盾し,目的を見失わせてしまうこと,だと思われる.  

 次項からは,ロスバードの提案する戦術について見ていこう.

過渡的な要求

 ロスバードは,自由への過渡的な段階において,本来の目的である自由を見失わないように以下のように指針を示す.

「(a)過渡的過程の目的として自由という究極のゴールを常に掲げ」 「(b)明示的あるいは暗示的にそのゴールと矛盾するような方策や手段を決して取ってはならな い」⑷  

 例えば(彼の理論に従えば),減税を主張するにあたっては,「消費税を10%から5%へ減税 せよ.可能ならば全ての税について減税・廃止せよ.」と主張するのは望ましい.  

 一方で,「消費税を減税せよ.その財源として金融課税を強化せよ.」とか「消費税を減税せよ.国債を発行するのが良い」は,国家の規模を小さくする程度の目標すら掲げず,更に,国家 の規模を大きくするという矛盾した主張を含む.このような主張は(彼の理論によれば)望ましくな い.

財政赤字という反論

 日本は恒常的に財政赤字を抱えている.このような場合でも,リバタリアンは減税・廃止を主張すべきだろうか?  

 彼は言う.

「いつでもどこでも可能な限り、政府の活動は削減されねばならない。」「政府支出に反対すべき時は、予算が考慮されているか投票にかけられる時で、その時リバタリアンは支出の大幅削減 も要求すべきである。」⑸

勝利の条件

 ロスバードは自由の勝利へのシナリオとして,リバタリアニズムの観念が多くの人々に浸透し受け入れられた場合を想定し,更に,いくつかの必要条件を挙げる.  

 必要条件①「教育」  
 具体的には,抽象的な理論体系から人々の興味を惹きつける仕掛けまで幅広い種類の教育である.  

 必要条件②「運動」
 「自由の観念の勝利のためには、献身的なリバタリアンの活動グループ。自由について知識が豊かで、そのメッセージを他の人々に広めようとする人々。要するに、活動的で自覚的なリバタリア ン運動がなければならないのである。」⑹  

 必要条件③「専門家」  
 フルタイムの専門家は,自由の理論を大きく発展させる.更に,専門家は運動の核となり,観念を拡散させると言う.

共同戦線

 ロスバードは,リバタリアンが税制や道徳的規制などの論点ごとに異なる集団と「共同戦線」を張ることを推奨する.彼が挙げるメリットは以下の2点である.
「(a)特定のリバタリアンなゴールに向かって働くうちに、自分自身の勢力あるいは影響力を大 きく増大する」
「(b)…(中略)…リバタリアニズムは相互に関連した単一のシステムであって、彼らのゴールの完全な追求のためにはリバタリアンの図式全体を採用する必要がある、ということを彼らに示 す」⑺

おわりに

 ここまで読んでくださった数少ない読者は薄々気づいているかもしれない.本稿は,勝利の条件①に当たる.本稿を掲載するリバタリアン協会は②に当たる.望むならば,読者の方にも拡散をお願いして②を担っていただきたいが,差し出がましい要求であるので,希望の表明にとどめたい.  

 さて,引用文が相対的に多いので,以下ではロスバードの戦略を振り返ってみたい.

・廃止主義について

 個人的には強い説得力があるように感じた.ただ一方で私は,森村進氏が提案する相続税制度には強い魅力があると感じているので難しいところである(http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/ hermes/ir/re/15131/hogaku0060300390.pdf).更に,リバタリアンの多くが考えるよう に,消費税はほかの税に比べて相対的に価値中立であるから,所得税や法人税,その他の特別税 の廃止に優先順位をつけざるを得ないだろう.

・過渡的な要求,財政赤字について

 「〇〇税は減税し,××税は増税する」「〇〇税は廃止し,国債発行で賄う」と言う主張をよく聞く.どうやら我々が彼らに対してできるのは,減税もしくは廃止,支出の削減を訴える他なさそうである.

・勝利の条件について

 本稿は条件の①②の一部を担うことを目的に書いている.もしよろしければ,本稿を拡散して いただき,更にはリバタリアン協会のDiscordサーバーに参加していただけたら,幸いである.ここまで読んでくれた協会のメンバーはぜひ自身でも執筆に挑戦していただきたい.  

 勝手に宣伝することになるが,リバタリアニズムからは一定の距離をとりつつ,減税の活動を している団体としては各地・各税別の減税会が存在する.また,減税新聞なるものもインター ネット上で公開されている.私が知る限り,草の根減税運動としてはもっとも成功している運動だと思われる.活動も活発で素晴らしい.  

 ③の部分については,森村進,ノージック,ハイエク,ロスバード,アイン・ランド,橋本裕 子,フリードマン親子,ミーゼスなど素晴らしい専門家は枚挙にいとまがない.

・共同戦線について

 私たちが個別にコミットできる論点は小さな政府,表現の自由,婚姻制度の廃止,司法制度改革,知的財産制度の廃止,公教育の廃 止,売買春の合法化,大麻の合法化,子供の選挙権,里親制度,外国人の権利,中絶の権利など が挙げられよう.

参考文献

⑴マリー・ロスバード『自由の倫理学』森村進、森村たまき、鳥澤円訳,勁草書房,2003.p307・9.
⑵前掲 p308・8-10.
⑶前掲 p308-309・18-19,1-2.
⑷前掲 p311・6-7.
⑸前掲 p312-313・18-19,1.
⑹前掲 p314・5-7.
⑺前掲 p315-316・18-19,1-3

大学院生。