仁藤夢乃氏が代表理事を務める一般社団法人Colaboは、2018年度より、東京都若年被害女性等支援事業を受託している。これに対し2022年11月に住民監査請求が提起された。東京都監査委員はこれを受け2023年1月に再調査を決定した。2023年3月3日に東京都は再調査の結果を公表した。詳細は、東京都のホームページを参照されたい(1)。不明瞭な活動内容、民間であれば不適切とされかねない経費、領収書の情報開示拒否、対象経費から除外された192万円の返還を求めない東京都の態度など不可解な言動が目立つ。これは、東京都の政治家や公務員、Colaboの関係者が単に恥知らずだという問題ではなく、政治的に戦略的な行動である。誰が得をするのか?もちろん支配者階級である。
自己所有権を蝕む公共事業や補助金の拡大行為
ここでは、Colaboの会計や活動に疑義がある問題についての詳細は取り扱わない。私よりも適任な人がいるだろう。分業と交換である。それよりも、リバタリアン思想の観点から、本件も含めた公益事業や補助金の問題について考えたい。
多くの人々にとって、生活が困難な女性を支援することは道徳的に善いと思うかもしれない。しかし、それらがリバタリアンな権利を超越した暴力を伴う場合には、自由の範囲外であって犯罪と見做される。例えば、警察の暴力を基にさまざまな規制を制定し人々の自由を奪う行為や、徴税権力を行使し人々から財産を取り上げ分配する行為は犯罪である。加言すれば、そのような行為を執行するため税金を徴収している国家、及び東京都は犯罪者集団である。
ここでの問題は、そのような犯罪行為が日本で「当たり前」であるとか、「公共の利益」として「正当化」されている点にある。
経済学者・政治哲学者のマレー・ロスバードは著書の1つである Power and Market にて、主に税金によって収入を得る政治家や官僚などをフルタイムの支配者と指摘し、政府から補助金を得ている人々をパートタイムの支配者と指摘した。彼の分析によれば「一般的に、国家は正社員(すなわち政府のメンバー)を、補助金漬けの支持者で補わなければ、多数派の受動的な支持を得ることができない。官僚の雇用と助成金は、大人数の集団の積極的な支持を得るために不可欠である。一旦、国家がその大義に積極的な支持者集団を固めることができれば、残りの国民の無知と無関心を当てにして、大多数から消極的な信奉者を獲得し、積極的な反対を最低限にまで減らすことができる⑵(※訳は筆者による)。」
もちろん、国家が独占している事業や、国家の統制が強い分野のサービスを単に利用する人を、パートタイムの支配者であると非難できないかもしれない。理想とは程遠い現実では、それらを利用する他選択肢がないとか、搾取された税金を取り戻す手段として正当化される可能性があるからだ。非難できるか否かの境界は曖昧に思われるかもしれない。例えば、議会の予算の拡大に影響を与えた場合は課税=強制労働の被害を大きくしているといえるし、政策の目的に適合しない用途に税金を使った場合は窃盗である上に詐欺的であり、非難可能と思われる。
Colabo問題のリバタリアン的視点
本件で言えば、都知事、都議会議員や都の職員はフルタイムの支配者であり、Colaboはパートタイムの支配者である。
東京都知事や議員、都の職員は課税によって生計を立てている。彼らは大衆の支持がなければ権力を維持できないため、「(地方自治体も含む)政府は存在しなければならず、これを支持し、服従しなければならない」と多数派に確信させる必要がある。それゆえ政府は、イデオロギーの宣伝家を雇う。つまり、同意工作のための「知識人」や「活動家」を必要とする。王権神授説がかつて王権を支持したように、東京都は「共生社会」などのイデオロギーを用いて、予算と特権を「正当化」し拡大するのである。
Colaboはフェミニズムに基礎づけられた女性支援活動団体である。Colaboは女性支援活動の国家的介入の必要性を訴えることで、すなわち国家の宣伝をすることで、国家によって統制された「市場」を得ることができた。都は予算拡大の見返りとして、恣意的な選択によってColaboを対象事業者に選ぶ。一旦、特権を獲得すれば、あとは委託料(補助金)の金額を拡大するだけである。
また、国家を介して、つまり、非自発的であるパターナリズムに基づく行為は、文字通りに家父長制的であり、自律的主体としての女性の立場を改善するとは言い切れず、「男性支配」を助長する可能性もある。
このように、都もColaboもwin-winの関係にあり、納税者を犠牲に権力と予算を得る。そこで、「Colaboのような疑わしい団体は排除しよう」と言う人がいるかもしれない。しかし、この問題はColaboに限らない。その他数多くのNPO、オリンピックならびにソーラーパネルなどの汚職、EVなどの環境政策、医療政策、感染症対策など枚挙にいとまがない。なぜ税金を搾取する集団がこれほどまでに蔓延しているかといえば、納税者と税金消費者とに分割される以上、両者は対立的な関係にならざるを得ないからである。
ところで「Colaboは共産党を支持しているように見えるので、東京都を支持しているというのは間違いなのでは?」という疑問があるかもしれない。しかし、Colaboが共産党を支持しようが都民ファーストの会を支持しようが関係ない。いずれにせよ、国家という課税(=窃盗)システムを支持しているから問題なのである。確かに共産党が与党を取れば、Colaboの分け前は増加するだろうが、共産党が与党でなくとも現在のように「先進的な」活動は可能である。
以上のように、補助金による納税者への搾取は、国家が存在する限りなくなることはない。課税や規制の廃止、究極的には国家の廃止が必要である。(中条やばみ)
参考
⑴東京都HP「東京都若年被害女性等支援事業について当該事業の受託者の会計報告に不正があるとして、当該報告について監査を求める住民監査請求に係る勧告に基づき知事が講じた措置について」https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/03/03/11.html 、2023/03/23確認。
⑵, Rothbard, Murray M. (2009) Man, Economy, and State withPower and Market, Scholer’s ed. 2nd. ed., Mises Institute, https://mises.org/library/man-economy-and-state-power-and-market/html/p/1375