取材:12.8京都大学総長室突入

 2023年12月8日、京都市にある京都大学にて、熊野寮自治会の寮祭企画「総長室突入」が行われた。当協会は特派員を派遣し、これを取材した。この記事は「総長室突入」の全容となる。

 行事そのものの報告の前にまず読者に対して前提となる知識を解説する。熊野寮自治会は、京都大学に属する学生宿舎熊野寮を統治する主体であり、いわゆる自治寮と呼ばれる社会結合体であり、入退寮、雑務、予算案の作成等、寮にまつわる事柄を自らの手で決定する政治共同体である。ここ数十年の間に、政府の政策により自治寮は激減しており、政府当局(正確には大学当局)が直接的に管理する管理寮が増加している。同じ京都大学でも、2016年から始まった女子寮の管理寮化、2019年には吉田寮は大学当局から老朽化を口実に建物明渡請求訴訟が提訴されている。大仰ではあるが、このような京都大学における自治寮の状況からして、熊野寮は最後の牙城と言ってよい。

 熊野寮祭は、熊野寮自治会、そして寮祭実行委員会が主催する、熊野寮随一の行事である。今回取材した「総長室突入」の他にも、京都駅の大階段での「京都駅階段グリコ」、京都市の繁華街である四条通(河原町近辺)で行われる「四条運動会」、鴨川を自作のイカダ(あるいは自力)で下る「鴨川イカダレース」等、10日間に渡って諸企画が寮生の手によって開催される。

 「総長室突入」は、文字通り、京都大学総長室への突入を試みる学生による直接行動であり、熊野寮自治会が発表している声明文によると、学生の権利の剥奪と大学の「私物化」・研究技術の軍事転用に声をあげ、湊長博総長に直談判を試みるものだという。

 要求項目は以下の通りである(1)。

①学生・教職員の生活を脅かすな。具体的には以下4点要求する。

・保健診療所・文系保健室を廃止前と同水準で再開すること

・学生自治寮への介入をやめること

・教職員に対する非正規職化や雇用雇い止めをやめ、無期雇用転換を積極的に行うこと

・学費値上げを行わないこと

②学生への管理強化をやめよ。具体的には以下4点要求する。

・公認団体・サークルへの規制をやめること

・11月祭に対する介入をやめること

・京都大学立看板規程を撤廃すること

・学生の自由な活動を制限する一方的な授業改革(CAP制など)をやめること

③自治活動への弾圧をやめよ。具体的には以下4点要求する。

・学生の活動に対する職員の監視・妨害行為、並びに警察導入をやめること

・同学会再建準備会の要求・交渉を拒否するとした2023年度告示第7号を撤回し、各学生団体との交渉に応じること

・学生懲戒規程を撤廃し、2016年から続く学生に対する処分を撤回すること

・昨年度総長室突入への参加を理由とした処分手続きを直ちに停止し、その旨を公表すること

④ガバナンス強化をやめて自治に基づいた大学運営を行え。具体的には以下3点要求する。

・国際卓越研究大学制度への応募を取りやめること

・国立大学法人法改正案に反対の立場を表明し、運営方針会議を設置しないこと

・各学生自治組織、並びに教職員組合からの団体交渉要求に誠実に応じ、合意に基づいた大学運営を行うこと

⑤大学の戦争動員と国籍による差別を許すな。具体的には以下2点要求する。

・大学の戦争動員に反対の立場を表明し、安保技術研究推進制度、経済安保重点技術研究プログラムなど軍事転用を前提とした研究を禁止すること

・授業・研究活動における留学生への差別・排除を行わないこと

 最後に、上記要求項目について、関心のある人全員が参加できる形態での団体交渉を行い、湊長溥氏本人が出席して見解を明らかにすることを要求する。この交渉に応じることができないならば、直ちに総長を辞任するよう要求する。

 「突入」は12時ちょうどに京都大学クスノキ前(正門付近)のアジテーションから始まり、12時40分頃から参加者一同が総長室の存在する本部棟に向かった。その後、本部棟前にて「開けろ!」等の参加者の声が飛び交った。本部棟は閉鎖されており、建物内に数名の警備員と大学職員が無言で棒立ちするのみであったため、「突入」参加者は本部棟を一周した後、声明文を本部棟の玄関に張り付け、13時頃クスノキ前に移動し、解散となった。

 以下は、アジテーションでの発言からの抜粋である。

 Yさん「今の現状を考えて欲しい。学内で集会をやろうとすれば弾圧される。あれだけたくさんあったタテカンはみんな撤去され規制される。このように学生が何かアクションを起こすと処分される。熊野寮祭は、私たちを縛る様々な抑圧から解放する、人間解放の闘いでもあります。そして、それを支えているのは、こうして集まった人々の団結力です。」

 Cさん「戦争政策としての大学改革を絶対に許さない、という立場を表明したいと思います。(中略)私たち学生に待っているのは、大学で「原材料」として加工され、卒業証書や資格といった「ラベル」をつけられて社会に出荷され、「商品」として売り買いされる未来です。一部の支配者の金儲けのために、使い捨てられていく未来です。そして、それをここ京都大学で主導しているのが他でもない湊総長です。まったくもって許せません。こんな湊総長なんて、こっちから捨ててやろうじゃないですか。」

 Wさん「学内での規制管理を強化して、逆らう学生、言うことを聞かない学生には暴力的に停学や退学にするような学生処分を振りかざして黙らせる。学費だけ払わせて大学構内に入れないというようなことをして、卒業や就職ができないかもしれない状況に追い詰めて、人生を壊して従わせようとしてくる。(中略)大学は学生や教員があり方を決められる場であるべき。

湊総長に抗議の声をあげよう、自分たちが決定権を持とう。」

 アジテーション後、本部棟に向かった参加者の数は200名を超えた。京都大学の学生はもちろん、他大学の学生、近隣住民等が参加していた。これだけの数が大学内部で参加する日本の学生運動は、現在となっては存在しないと言っても過言ではなく、「突入」の影響力が窺い知れる。

 参加者のXさんは、「京都大学当局に対しての主張が多くある。それは、寮を始めとしたさまざまな学生自治潰しに対する抗議、学生が集会の開催を試みると大学職員が妨害してくることに対する抗議、学生の主張を無視して学生を商品のように扱っていることは許せない。私たち学生はそのことを大学当局に伝えたかったから参加した。結果として、本部棟が閉鎖されており総長室突入はできなかった。それは、大学当局が学生の主張を聞かないことだと思う。本当に許せないと思ったが、200人以上の学生が集まって抗議することができたのは、これから運動を広げていって、いずれ大学当局を打倒していけるような展望が見えたと思う」と語った。

 また、Sさんによると、今回の「突入」は例年行われている企画・直接行動と異なり、大学職員が配備されておらず無人であったことが特徴的だと言う。通常、「総長室突入」のような行事のときは、正門前に職員が学生を牽制しているという。

 当協会は、国家と闘う学生らの運動を、今後も取材する予定である。

 (リバタリアン協会)

注釈

(1)

熊野寮自治会総長室突入声明文(日本語)

https://kumano-ryo.jimdofree.com/%E5%A3%B0%E6%98%8E%E6%96%87/%E7%B7%8F%E9%95%B7%E5%AE%A4%E7%AA%81%E5%85%A5%E5%A3%B0%E6%98%8E%E6%96%87-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E/