2.17 講演会報告:リバタリアン思想史

 2024年2月17日に、リバタリアン協会主催の講演会「リバタリアン思想史から考えるリバタリアニズムの展望」を大阪市内で開催しました。同日13時頃より開始した同講演会には、現地参加5名、オンライン参加約10名が参加しました。ご参加大変ありがとうございました。以下は、講演会の内容報告、そして補足となります。

報告内容の骨子

 報告内容は、第一部から第四部までの四部構成とした。第一部:導入では、過去の報告(※★「8/4ウェビナー報告」★)を踏まえたリバタリアン思想の歴史や運動を簡単に概括した。第二部:思想では、相互主義からアゴリズムに至るリバタリアン思想を紹介した。第三部:運動では、議会主義やテロリズムのような諸運動の特徴を概括し、その後、スペイン内戦等の歴史的運動を取り上げた。第四部:総括と展望では、過去の運動の問題点を総括し、リバタリアニズムの展望を述べた。

 報告は、部ごとに質疑応答の時間を設けた。また、講演会終了後にオンライン参加者の質問に応答した。

 以下、簡単ではあるが部ごと報告内容を述べる。ただし、第一部は割愛する

 第二部:思想では、リバタリアン思想並びにその関連思想として、相互主義、無政府集産主義、無政府個人主義、ロック的所有論、オーストリア学派経済学、無政府資本主義、アゴリズムを紹介した。リバタリアン思想の流れとして、社会主義理論から自由市場理論へと推移したことが挙げられる。特にアメリカではこの推移が盛んであっと言えるし、ヨーロッパではそうではなかったと言える。いずれにせよ、リバタリアン思想のルーツには、社会主義と(ロック的な)自由主義があることを確認した。

 第三部:運動では、リバタリアン運動にあった典型例として、議会主義、テロリズム、ブラック・マーケット、(非テロリズム、非ブラック・マーケット的な)実力を伴った直接行動を挙げた。議会主義は政府に議会を有することで社会変革を成す手法であり、間接「民主制」だが、必ずしも有権者の過半数を必要としないところが特徴である。また、議会派による非議会派の非難・弾圧はよくあることで、議会派は国家主義者に転化しやすいと言える。テロリズムはテロル(恐怖)による社会変革であり、政府等の要人の暗殺や、施設の爆破・襲撃を基本とする。個人的対応に終始しがちであり、組織的運動とはならないことが多い。ブラック・マーケットはリバタリアンとしては正当だが、政府の「法」では「違法」な経済活動によって社会変革を成すものである。理念(リバタリアニズム)に忠実ではあるが、ブラック・マーケット実行者の逮捕・弾圧によって、それらの運動が大きくなることはなかった。多くの政治活動と異なり、経済活動がブラック・マーケットの中心であるため、ブラック・マーケット実行者の逮捕やその財産の接収は、経済活動に著しい悪影響を及ぼす(というよりも活動が不能となる)こと、また、政府構成員こそが最もブラック・マーケットの実行者でありながら、ブラック・マーケットの恩恵によって政府を強力にする問題点がある――政治家による脱税等が最たる例である。

発言者(前川範行)による補足

 リバタリアン思想の流れとして、所有の社会化や私的所有の廃止といった社会主義的理論から、ロック的所有論をベースとした自由市場理論へと発展していることが要点となる。報告では述べなかったが、おそらく、両理論の「ミッシングリンク」が無政府個人主義にあたるだろう。ライサンダー・スプーナーやベンジャミン・タッカーらアメリカの「ボストン派」は社会主義者ではあったが、あくまで個人の自由を何よりも重んじていたため、マルクス主義(そして後世で云うスターリン主義も該当しうるだろう)に反発していた。この、非自由主義的な徹底した個人主義が、アメリカの保守派(後世で云うところのオールド・ライト)へと受け継がれたのではないだろうか。つまり、アメリカにおいては、<ボストン派→オールド・ライト→リバタリアン>という思想的フローがあると仮定すれば、社会主義から自由市場へと推移したと理解できるのではないだろうか。実際、ボストン派は個人的な経済活動を誇示した他、スプーナーは郵便事業の独占に対して起業する形で――最終的に破綻したが――経済的にアメリカ合衆国に抗ったことからも明らかなように、20世紀で云うところの無政府資本主義的要素を体現していた。

 この無政府個人主義の存在とは別に、ロック的所有論が第二の接ぎ木になっているだろう。ジョン・ロックの所有観念は、明らかにリバタリアン社会主義者のそれとは異なる。誰しも等しい権利があり、それは国家以前の社会であっても適用され、その権利観は自由市場を擁護するのが特徴である。現在の社会についての記述よりも、仮構の権利観念を先に述べるスタイルは、多くの社会主義者、特にリバタリアン社会主義者のそれとはやや毛色が異なる。ロック的なスタイルは思想家のそれであり、リバタリアン社会主義者(例:バクーニン)のスタイルは活動家のそれである。前者は理想理論にコミットし、後者は非理想理論にコミットする。

おわりに

 今回はリバタリアン思想について網羅的に解説しました。具体的な事柄については、機関紙『リバタリアン』の記事や、各リバタリアンの著作をご参考ください。

(リバタリアン協会)