8/4ウェビナー報告

 2023年8月4日20時に、Students for Liberty Japan (以下、SFL)主催のウェビナー、「リバタリアン思想史」が開催された。これは、当協会会長の前川範行がパネリストとしてリバタリアン思想の分類と歴史を語る内容である。本稿は、ウェビナーの経過等を報告する。

 まず、SFLの Local Cordinator (日本)の、いとうひかる氏によるSFLの紹介が行われた。次に、本題である「リバタリアン思想史」の発表が前川によって行われた。自己紹介の後に、①リバタリアンとは?②リバタリアンの誕生、③20世紀アメリカのリバタリアン、④リバタリアン間の論争、⑤21世紀のリバタリアン、の章ごとに発表を行い、その後視聴者からの質疑応答を受けた。

 ①「リバタリアンとは?」では、リバタリアンのおおまかな特徴(例:権威を嫌い自由を好む等)や、その分類(リバタリアン社会主義・左派リバタリアン・右派リバタリアン)、自己所有権を紹介した。発表では明示しなかったが、リバタリアンの3分類はウィダクィストのそれに依拠する(Widerquist 2008)。左派リバタリアンの節では、ヘンリー・ジョージやヒレル・スタイナー学派に加え、自由市場無政府主義やアゴリズムを左派リバタリアンの一派として取り扱った。通常、学術上の左派リバタリアンはスタイナーらに偏重する傾向があるため、運動(史)ベースのアゴリズムを紹介できた意義は大きい。自己所有権の紹介は、身体所有権と私的・労働所有権の2つに分類して解説した。リバタリアン3派の諸関係を図表にまとめると、図1、表1になる。

図1

表1

 ②「リバタリアンの誕生」では、主に、リバタリアンの思想史・運動史を取り扱った。本発表では、1858年にジョセフ・デジャックが発表した le libertairをリバタリアンの開始とした。次に、19世紀から20世紀初頭のヨーロッパのリバタリアンの運動であるスペイン内戦を紹介し、その後アメリカのプロト・リバタリアン(ライサンダー・スプーナー、ベンジャミン・タッカー)らの紹介を行った。これらは主にリバタリアン社会主義の思想と運動である。第三に、アメリカのオールド・ライトを紹介した。オールド・ライトそのものはリバタリアンと同定され得ないものの、アメリカのリバタリアンの思想と運動の源泉の1つであるため、紹介するに至った。

 ③「20世紀アメリカのリバタリアン」では、タイトル通り、20世紀のアメリカのリバタリアンの研究や運動を概説した。1969年、共和党セントルイス大会(後)のリバタリアン追放から解説をはじめ、20世紀アメリカのリバタリアン運動、アカデミアへの進出、知的基盤たるシンクタンクの設立、リバタリアンの政治的衰退を取り扱った。思想の流れを図にすると図2になる。

 ④「リバタリアン間の論争」では、無政府資本主義対最小国家主義、無政府資本主義対自由市場無政府主義、無政府資本主義対リバタリアン社会主義、ハード・リバタリアン対ソフト・リバタリアンの4対立を取り扱った。これら論争が日本で取り扱われることは皆無に近いので、一定の意義があったと言えよう。

 ⑤「21世紀のリバタリアン」では、簡単ではあるが、ティーパーティー運動とダーク・ウェブを紹介した。

 発表後の質疑応答では、「左派リバタリアニズムの運動」と「国家がなくなることによる弊害」の2つの質問が視聴者から寄せられた。前者の質問に対し前川は、左派リバタリアン、特にジョージ/スタイナー主義的運動は稀であると返答した。一方、アゴリズムについては(当事者たちが意識的かどうかはともかく)ダーク・ウェブに通底するものがあるため、人知れず運動が形成されていると言えよう。後者の質問に対しては、①ありとあらゆる主義主張に基づく社会変革は損害を被る・不便を感じる人が発生すること、②その上で(リバタリアン的な)国家廃止は、政治家・官僚・政府と利害のある人たちが弊害を感じるだろうと返答した。当日は返答しなかったが、社会変革中あるいは社会変革後からすぐの期間は、意識的なリバタリアンでさえ多少の不便を感じるかもしれない。これは、やむを得ないものだろう。不便だからと言って何もしないのであれば、リバタリアン思想は不要である。

 以上が報告の要旨である。個々具体的というよりも概括的な報告であったため、物足りなさを感じる視聴者がいたかもしれない。そのような考えが芽生えた方は、是非、共にリバタリアン思想を考察して欲しいし、機関紙『リバタリアン』に寄稿していただきたい。

 SFLあるいはリバタリアン協会主催で今後もウェビナーを開催する予定ですので、皆様、是非ご参加いただければ幸いです。

(リバタリアン協会)