4月21日と22日の二日間、ポルトガルのリスボンにてStudents for Libertyが開催するLibertyCon Europe2023というイベントが開催されました。このイベントのホームページには「LibertyConはヨーロッパ最大のpro-libertyイベントである」とあり、「リバタリアン以外も参加可能です。」「あらゆるタイプや背景のpro-liberty peopleを歓迎します。」「事前知識がなくても大丈夫です。」といった旨の記載がありました。わたしはリバタリアンを自称しないものの最近自由主義思想に関心を持ち、またそれらの啓蒙のために海外ではどのような活動がされているかに興味がありました。ちょうど仕事の有給消化期間が重なり、この機会を逃してはならないと、約30万円の往復航空券と約3千円の参加費を支払って参加してまいりました。リスボンへは直行便がなく、今回はパリでの乗り換えを経て、片道16時間強の行程となりました。これはそのイベントレポートです。
会場についてまず初めに驚いたのは会場が広く、明るく、非常におしゃれな場所であったことです。会場は1500年代に修道院として建設された古い建造物を転用したイベント施設でした。とても開放的で、日差しとそよ風が入り込み、時差ぼけを忘れるとても心地良い空間でした。受付を済ませ広いセッションルームに入ると、前方のステージには大きなスクリーンがあり、ピンクやオレンジなどビビッドな画像を背景にした登壇者の写真が投影されています。わたしが入場した際にはすでにイベントは始まっており、数百人の参加者が席に付き、ステージ上の登壇者の話を熱心に聞いていました。参加者の多くは20-40代であり、男女比は男性が女性より少し多い程度、日本の高齢な男性ばかりの政治系の集会や学会とは全く異なる印象です。
一日目の前半のセッションは現地ポルトガルのIniciativa Liberal党の創設者ティアゴ・マヤン氏を交えた「リバタリアンとは」というトークセッションや、ヨーロッパにおけるロシアの影響力など、比較的分かりやすいテーマが設定されていた印象です。会場にはメインルームの他に2つの部屋があり、異なるテーマのセッションが同時に開催されています。そのためすべてのセッションを聴講することは叶いませんでしたが、会場のあちこちで多様なテーマのトークが繰り広げられ、「ここはリバタリアンにとってのディズニーランドだ」と表現する登壇者もいました。わたし自身は英語は堪能ではなく、さらに様々な国々の独特なアクセントが私にとってハードルとなり、細かい内容が理解できたのはごく一部だったのですが、どこを取っても日本に戻ってからも勉強したいと思える興味深いテーマばかりでした。
一日目の後半、メインセッションのひとつであるロッド・リチャードソン氏による「自由市場での気候政策とイノベーション促進のための新戦略(原題:New Strategies for Free Market Climate Policy and Innovation Acceleration)」では、自由市場を原則とした環境に良いクリーン政策とそれに向けた国際合意の提言が紹介されました。現在の気候変動政策や環境問題対策は市場の障壁となり、人々に負担を課すものとなっています。そうではなく、経済効果を重視し、例えば、再生エネルギーを生産する企業には減税などのインセンティブを提供する政策等、新しいアプローチでの環境政策を推進することが勧められています。その実績はひいては自由競争、自由貿易、財産権の保護、民主主義に資するという話でした。さらにこのセッションは続きがあり、二日目に参加者を含めたグループディスカッションが開催され、またイベント終了後もオンライン会議の開催など継続的な活動が展開されていました。ここではさらに具体的な政策や提言が提示されており、いただいた資料を解読して、引き続き注目していきたいと思います。
また、一日目の後半のセッションではビットコインなどの仮想通貨やフリーバンキングなど、未来の通貨に関するセッションも多くの聴講者が集まっていました。
余談ですが、わたしはランチが含まれるチケットを購入しておりそれを楽しみにしていました。箱を開けたら小さなハンバーガーとポテトと小さなエッグタルトでしたので、食べ物に関してはそれ以上言及することはないのですが(チケットを事前に買っていなければ当日その小さなハンバーガーを買うのに行列に並ばなければならなかったので買っておいて良かったです)、ランチタイムに相席になった数人と言葉を交わす中で、「普段の生活ではリバタリアンは少数派で肩身の狭い思いをしている。今日は仲間がたくさんいて楽しい。」というような話を複数人から聞けたのは貴重な体験でした。
セッションルームの外のホールでは様々な団体がブースを出し、無償で本やグッズなどを配布していたのですが、その多くがアイン・ランドを中心に扱っていたのは衝撃でした。わたしはこのイベントに行く前はハイエクやミーゼスが人気であるイベントであるだろうと想像し予習をしていました。しかし、実際はそれらよりはるかにアイン・ランドの人気が高かったのです。イベント会場のブースは「アイン・ランドだらけ」と言っても過言ではない状況でした。わたしは名前だけは知っていたものの読んだことがなく、帰国時に慌てて購入しました。日本語で”アイン・ランド”と検索してもまとまった情報がほとんどなく、あまりに海外の人気とのギャップがあります。アイン・ランドについては今後調べていこうと思っています。
LibertyCon二日目は、festivalと称してメインステージと学生ステージそれぞれで30分ごとに次々と登壇者が登場します。一日目に比べ、カジュアルで学園祭的な雰囲気がありました。
その中で一番注目度が高く聴講者が集まっていたのはデイヴィッド・フリードマン氏の「外部性の議論に関する課題 – 人口問題、環境問題、COVID(原題:The Problem With Externality Arguments:Population, Climate, COVID)」でした。わたしにとっては初めて聞く経済用語が多々あり難解な部分もありましたが、フリードマン氏は講義では要点が記載されたスライドを表示してくれていましたので、その文字を必死に検索しながらの聴講となりました。彼のスピーチの要点としては「ひとつの事象にもたくさんの負の正の外部性が複雑に作用するため、経済の調整として実施される既存の解決法は、どんな方法であれその効果を正確に知ることができない。」「外部性からの議論は、結局は政治的な口実である。」という達観した内容です。抽象的な経済事象を人口問題や環境問題など具体的な政策を挙げて、それらの効果は正確には計算できないということを提示していました。この内容は上記の前日からのメインセッショントピック「自由市場におけるクリーン政策」に対する批判的な側面もあり、質疑応答の時間では厳しい質問が飛んでいました。この講義の内容は動画でも撮影しており、事前に運営の方に公開許可を得ているので、そのうち翻訳と合わせて公開をしていく予定です。
今回のイベントでは、おそらく日本人どころか他にアジア人はほとんどいませんでしたが、二日間を通して日本人の共通の知人がいる参加者複数名と言葉を交わすことができました。そして、Liberty Conのような様々なイベントが世界中で開催されていることを知りました。今後基礎的な情報を日本語で吸収しつつ、並行して引き続き海外の情勢をキャッチアップしていきたいと思います。
最後に、今回のわたしのLibertyCon参加に興味を持ってくれた韓国のStudent for Liberyのメンバーが日本のコーディネーターを通して私に連絡をくださり、オンラインミーティングで上記の簡易レポートを、写真を交えて紹介する機会を頂きました。機会をいただきましたコーディネーターのいとうひかる氏に感謝いたします。
(長谷川裕子)